TOP巻頭言集 第51号 悟弓巻頭言

第51号 悟弓巻頭言

弓懐(ゆみふところ)と円相      師範 魚 住 一 郎


尾州竹林流では、「取懸け、手の内を整える時、両腕は円相で弓懐を構成するように」と教示されています。
 即ち、両腕が下がらないように少し張る心持で(物を抱きかかえるような格好)円相を形成するようにと云う教えです。
 また、引分けについて「打ち渡す()()(かけ)(はし)(すぐ)なれど引き渡すには反り橋ぞよき」と云う教歌もあります。
 これは正面から引分けを見た時、両手の動きが反り橋(半円形)のように移行することがよいと云う教えです。これも円相です。

先代の魚住文衛師範は、この円相と云うことを特に強調しておられました。
 師によれば、「円相は(かたち)だけの事ではない。心の円相、目づかいの円相、力の円相、速度の円相、息合いの円相、射技射形全体の円相があるとされ、それぞれ次のように説明されています。

心の円相と云うのは、大日如来の如く仏のような心、寒夜に霜の音を聴く心境、七情を去った無念無想の心境。
 目づかいの円相と云うのは、心と目づかいは一体のものであり、起居進退は常に目は半眼に開き、思無邪の心境によってその場全体を心眼にとらえ、的に対しては少しも瞬きすることなく、雪の目付とか一分三界の目付けを以って的と心技体が一体となるように精神を統一すること。
 力の円相と云うのは、打起しから離に至るまでの筋力の使い方の円相で、形の円相と密接な関係があり、筋力の使い方は弓の抵抗力に応じてムリムダのない筋力と左右の均衡、縦線と横線の調和を保ちつつ会に至り、(ゆる)まず、力まず(やごろ)に至って爆発するような味で離れること。
 速度の円相と云うのは、筋力と速度とは密接な関係があり、打起しと引分けの運行に際し、適度な速度で行うこと。具体的には斜面打起しの場合、弓構えまで56秒程度、大三で2秒程度、引き収めるまで6秒程度、会での詰合伸合に5~6秒程度合計1820秒程度、遠的の場合はこれより幾分早いのがよい。
 息合いの円相というのは、速度の円相とも関係し、生理的な呼吸だけではなく、心気の発動によって生理的な呼吸を伴い、力まず出来るだけ静かに長く呼吸を使うことが大切。
 射技射形全体の円相と云うのは、以上の円相など外面的にも内面的にもムリムダのない、気合いがこもって、全体がうまく調和し、隙のない運行をすることである。

要は、射業に際しては、姿勢を正し、心(ゆたか)に動ずることなく、目づかい、息合いに気を配り、力まず、水が流れるように間断なく、リズミカルに全体がうまく調和することを心掛けることが必要であると云うことです。

ここで、調和と云うことについて少し敷衍しておきたいと思います。
 射業は、弓に矢を番えて的を射るわけですから、弓具が射手に合ったものを使用することが必要です。
 体格に合った弓の強さと長さ、手のひらや指の長さに合った弓弝の形と太さ、矢束や弓の強さに合った矢の長さと重さ、手の大きさや弓の強さに合った弽の選択などです。
 特に、弓の強さについては、技量が向上するにつれて強い弓に移行する必要があります。
 最近では、何時までも弱い弓を使っている人を多く見かけますが、弱い弓では矢勢にも限界があり飛距離は伸びなくて的中率も低く技量も向上しません。
 昔から同じ強さの弓二張を引いて肩が入る程度が技量に合った強さ云われています。先代の師範は、体重の1/3位の弓は引くことができるし、そのくらいの弓を引きこなせる技量を身につけるよう努力する必要であると云われています。
 弓具にも関心をもって、体格や技量に合ったものを使用するよう心掛けたいものです。




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