TOP巻頭言集 第49号 悟弓巻頭言

第49号 悟弓巻頭言

射における心気の働き      師範 魚 住 一 郎



 全日本弓道連盟の弓道教本第一巻に射法・射技の基本の一つとして、「心気の働き」をあげ、「正しい身体活動も、正しい精神の安定がなければならない」として、心気の働きの重要性を説き、「弓道の特徴は、特に自己統制と情緒の安定が要求される」とし、正しい信念に基づき、誠を尽くし、意志力、実行力に徹して心の安定、気力の充実をはかるよう修錬しなければならない」としています。

 また、村上久範士はその著書「弓射における心法の研究」のなかで、会における伸合いから離れに際し、「妄念、執着心、欲望を克服して一念に徹し、決断力を養う」ことの必要性を説いておられます。

 稽古では、どうしても射技面に関心が向きがちで、精神面への配慮は希薄になりがちですが、心理状態が射に及ぼす影響は侮れません。

 一射一射、射詰競射のつもりで、徹底した稽古を重ねて体に覚え込ませ、射に集中する習慣を身につけることによって、「上手に引きたい・中てたい・勝ちたい」、「外れはしないか・失敗しないか・負けはしないか」といった欲望や迷い、不安感を克服することができるのではないかと思います。

これは一朝一夕にしては出来る事ではありませんが、「為せば成る、為さねばならぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」という上杉鷹山公の言葉の通り、どんなことにも動じない確固たる信念と何が何でも目標を達成すると云う強い意志があれば出来ないことはありません。

 心気の働きについては、「悟弓」の巻頭言でも度々触れてきましたが、徹底した練習により集中力を養うことを改めて銘記したいと思います。

 具体的に集中力を養う方法については諸説ありますが、特に弓のような静的な運動については、呼吸(息合)と深い関係があると云われています。

 尾州竹林流の「歌知射の巻」に、「息相は、大悟道である」とし、次のように教示されていますので参考に供しておきます。

『息は常の息(イイの息・水中の息とも云われ、歯を軽く喰い締めて息を僅かな口の隙間からイイーとかすかに吐く)を使って轄を詰める時(会)に至って満ちる息で離れよ。

 弓構をして常の息にて能く収め、打起しで能く収め、引き渡して能く収め、常の息で能く抱え、五部の詰息にて自然に離れる。』

 即ち、息は詰めて力むことなく、細く長い息を使い気力と息とを一致させよと云うことです。息を詰めて力むと身体も堅くなり心気の余裕もなくなって心も安定しないと云うことです。さらに、息合に気持を向けることによって、雑念が起る事も少なくなり、身に覚えた動きがスムーズにできて、良い結果が得られるということではないでしょうか。


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